卒前・卒後の臨床教育の阻害因子

分子生物学の発達により、主要な学会でのトピックスはこの手法を用いた研究が多く、一流の研究者でかつ一流の臨床家であることは困難な時代となった.

卒前教育においては、臨床家が少ない大学病院では誰が学生を教えるのだろうか.論文を発表して初めて評価される大学スタッフは、学生教育は義務ではなく自分の研究の片手間としか考えていない人が多い.卒前教育を終えたにも関わらず、卒業直後の新人医師は患者を診るという臨床能力はほとんどない.それゆえ、1人前の臨床医になるためには、2年では不十分で最低5年の修練が必要と考える.しかし、彼らはその途中で、同級生も取るからとの理由で博士号をとりに大学へ帰ることが多い.又、大学は、彼らに研究者になることを期待する.基礎的研究は科学を理解するためには必要であるが、この博士号制度が卒後の臨床研修制度の大きな阻害因子の一つになっていると言わざるを得ない.臨床研修改善の突破口として、卒前・卒後の一貫した研修カリキュラムの再編成が、大学病院ではなく卒後教育を熱心に取り組んでいる市中病院から始まることを期待したい.

研修医と一緒に仕事をしていると、彼らのうち10人に1ー2人は、患者と会話したり、病人に共感することができないことを感じる.このような医師に対して、卒後臨床教育を施行しても性格を変えることはできず、本人にとっても臨床医を続けていくことは不幸である.大学が、臨床に適性がないと判断した学生に対し、責任をもって他の学部に編入できるようになる制度も、臨床研修制度に加えて必要と考える.